著者は司法試験受験予備校の辰巳法律研究所の看板行使で加藤晋佑先生です。
本著は何と1998年出版の本で約30年近く前の本ですが、事件簿というタイトルが面白そうで読みたくなりました。弁護士は業務上依頼人の秘密保持義務がありますので、具体的な事件は扱えないと思いました。基本書などで見ている事件が物語形式で面白く書いているのではないかと思って手に取ってみました。
タイトルにもある「パクリ」や「ノビ師」「サルベージ屋」など業界用語がサブタイトルとなってその説明が右と左の2ページにまとめられています。
「金融ビッグバンがスタートし、外資系の金融機関が日本のマーケットに大挙してやってくる。GMR事件はそんな時代性をよく反映した詐欺事件といえる。詐欺師は常に新手新手でカモをひっかけようとする」と冒頭にあるように、新しい詐欺手法、悪徳ビジネスの手法を独特の業界用語を交えて関西弁で面白くわかりやすく書かれています。勉強の間時間にサラサラと読めました。
特に、手形を落とす。手形の不渡、手形を割る、書き合い手形など手形基本書にはあまり載っていない一般用語の説明は勉強になりました。
また、会社法で問題となる総会屋については「欧米の株主総会では、株主が経営陣を厳しく追求するので延々5、6時間かかるのが当たり前。しかし日本では長引かないのが美徳とされている。個人株主よりも法人株主が圧倒的に多く終身雇用システムの中で経営者が選ばれる日本では、株主は社外の人間という認識が強い」とあり、その社会的背景について学ぶことができました。
詐欺事件の被害者は平凡な公務員から銀行の副頭取の娘までさまざま人物がいました。私は今まで家庭、学校などという安全な社会に守られてきたんだと感謝の気持ちが湧いてきつつ、安全な社会の外には、まさにお金を取るか取られるかの野生という感じでした。学力、地位、などは関係ない。より狡猾で無慈悲な者が勝つ実力社会がと実感させられました。
さすがに30年前の本なので法律がだいぶ変わり、今ではなくなった詐欺の手法などもあります。しかし、本書で強調している「詐欺師は常に新手新手でカモをひっかけようとする。」こと。例えば、GMR事件は金融ビッグバンがスタートし、外資系の金融機関が日本のマーケットに大挙してやってくる時代性をよく反映した詐欺事件でありました。今日では、SNSを通した詐欺や、AIなどのように新しい技術をうたった詐欺が次々とニュースで報道されている気がします。
弁護士を目指す者として常に新しい詐欺手段に目を張りどう対応すべきかを考えて備えておく必要があると考えさせられるいい本だったと思います。