抵当権は先取特権の物上代位の条文が準用されます(371,304条)。そして、物上代位権を行使するための要件は、①「払渡し又は引渡し前に」②「差押え」をすることです。抵当目的物について第三者の利害が絡んでいると、抵当権者とどちらが優先するかが差押えの性質とともに問題になることが多いです。
平成10年判決。
抵当不動産への物上代位と抵当不動産の賃料債権の譲渡が問題となりましたが、物上代位が優先されました。当判例は「差押え」が要件となっている趣旨として第三者債務者保護説を言及し「払渡し又は引渡し」に債権譲渡は含まれないとして物上代位を優先させました。第三債務者保護説は抵当権者と債権の譲受人のどちらかに弁済すべきか不明である点に着目して、二重弁済という不安な立場から保護するために「差押え」が要件となっていると解するものです。
平成13年判決。
抵当不動産への物上代位と抵当不動産の賃借人の相殺の優劣が問題となりましたが、物上代位が優先されました。相殺の簡易的な弁済の効果を重んじて相殺を認めた判例があったのを考えると、相殺が認められない珍しい判例ではないかと思います。平成13年の判決は、「差押え」の性質について優先権保全説に言及はしていないもののこれに親和的な解釈をして、相殺は「払渡し又は引渡し前に」に含まれると解釈したと思われます。そして、相殺者の期待の保護については「物上代位により抵当権の効力が賃料債権に及ぶことは抵当権設定登記により公示」されているとして、相殺を優先させるべき理由はないとしました。
平成10年判決と、平成13年判決は矛盾しているのでしょうか。両判例は抵当不動産に対して利害を有する第三者がいる点では共通していますが、平成10年判決は第三債務者が抵当権者徒の関係で二重弁済を強いられる反面、平成13年判決は自働債権を有する賃借人が抵当権者と債権の回収を争う点で異なっていると思います。
内田貴先生は『民法Ⅲ』債権総論・担保物権[第4版]において平成10年判決は債権が濫用的に譲渡された特殊な事案であるとし、それまでの判例の立場であると考えられていた優先権保全説を維持しつつ一般条項を通じて例外ルールを定立すべきではなかったかと言及されています。
試験対策との関係では、両方の最高裁を抑えることが大事だと思うので、第三債務者保護説と優先権保全説を両方理解した上で事案によって使い分けるようにしたいと思います。