募集株式の発行の発行は①既存株主の議決権比率の低下を招き②「特に有利な」金額である場合には、経済的損失を被るおそれがあります。
まず、募集株式の発行の決議からの流れをざっと確認しておくと、1⃣募集株式の発行のの決議2⃣その通知3⃣申込をして、お金を払って株式をもらうという流れになると思います。
1⃣決定。非株式会社は199条2項「株主総会の決議」かつ、特別決議をもって(309条2項5号)募集を決定しなければなりません。これに対して公開会社は「取締役会」で決定することができます。さらに募集事項の決定は株主総会の特別決議(200条1項、309条2項5号)をもって委任することができます(201条1項)。この際に、公開会社は発行可能株式総数は定款に定めてある発行可能株式総数の4倍を超えることができません(113条3項1号)。また、募集株式が引受人に「特に有利な金額」である場合には、例外的に株主総会の特別決議(201条199条3項)によっらなければならず、取締役は株主総会において説明をしなければなりません(199条3項)。また、総株主の議決権の数の過半数となる場合(特定引受人がいる場合)にも例外的に株主総会の決議により承認を得なければなりません(206条の2第4項)が、この決議は普通決議(206条の2第5項)で足ります。
「特に有利な金額」の定義について非上場会社においては「客観的資料に基づく一応合理的な算定方法」によって払込金額を決定したといえる場合には有利発行に該当しない(最判平成27・2・19)とし、さらに、公開会社においては「株式の公正な価額に比べて特に低い金額」をいう(東京地決平成16・6・1)と定義しています。
2⃣通知(201条3項)、公告(4項)。
3⃣申込(203条)。払込又は財産の出資。割当て(204条)。
以上のおいて、「当該株式の発行又は自己株式の処分が法令又は定款に違反する場合」(210条1号)「当該株式の発行又は自己株式の処分が著しく不公正な方法により行われる場合」(2号)には、募集株式の発行をやめることの請求するこができます。さらに、差し止めの仮処分命令(民事保全法)に違反してなされた募集株式の発行等の効力については、828条1項の無効原因にもなる。
募集株式の発行についての判例は新株発行の無効の訴え(828条1項2号)と関連して問題になります。1⃣については、非公開会社における株主総会決議を欠く募集株式の発行は無効原因となる判例(最判24年4月24日民集66・6・2908)と公開会社において株主総会の特別決議を経ないでなされた有利発行の効力については無効原因とならない(最判昭46・7・16)としたものがあり、両判例が矛盾しているように思われます。後者の判例は「特に有利な発行価額をもって発行されたものであっても、その瑕疵は、新株発行無効の原因とはならないものと解すべきである」と判旨しており、事実として133円が公正な価額である株を110円で発行している点を瑕疵が大きくないと判断したと思われます。とすれば、価額の差が大きければ、その瑕疵は大きく、無効請求が受け入れられる可能性があるのではないでしょうか。そして両判例の整合的解釈として本判例の枠組みは非公開会社には及ばないとしたのは前者の判例となるでしょう。
2⃣の通知、公告を欠いた募集株式の発行は無効原因となります(最判平9・1・28)。
会社法はとにかく条文があっちこっちとたくさん飛ぶので、その中から募集株式の発行の流れを抑え、それぞれの段階においてどんな問題があるのかを判例を通して整理しておくことが大事だと思いました。